平成生まれの医師のブログ

平成生まれの医師が医療、時事、趣味などを綴ります。

タトゥーとMRIと温泉

タトゥーの人は意外に多い

 病院で働くようになって気づいたのは、タトゥーを入れている人に意外に遭遇するということです。特に救急外来の仕事をしていると、救急車で運ばれてきた人にタトゥーが入っているというケースがしばしばあります。

 程度はまちまちで腕に少し入っているという人もいれば、腕と胸全体という人もいます。病院に運ばれると、外傷の場合は全身の観察が必要ですし、そうでなくても心電図モニターを装着する時などに服をめくるので、タトゥーはすぐに見つかります。

 

タトゥーを入れていると、MRIが撮れない?

 MRIは強力な磁力を使う検査です。高精度な画像を得るために、近年は使用する磁力もどんどん強くなっています。ある程度設備更新に余裕がある病院ならば、3T(テスラ)くらいのものがすでに広く普及しています。

 タトゥーとMRIがどう関係するかというと、しばしばタトゥーの顔料に磁力に反応する金属成分が含まれている点が問題になります。具体的には磁力に反応する金属成分がMRIの強力な磁場に曝されて、発熱することがあります。火傷を負った例の報告があります。

 

100%発熱するわけではないが、、、

 タトゥーの顔料に磁力に反応する金属成分が必ず含まれてるわけではありません。加えて、そのような金属が含まれていても、必ず発熱するわけでもありません。しかし、火傷のリスクがある以上、病院側は非常にナーバスになります。不意に火傷が生じて責められるのは病院だからです。入れる側にも責任の一端はあると思いますが。

 従って、タトゥーがある人の場合は、MRIを撮らないか、異常が生じた場合はすぐに中止できる準備をして検査します。しかし、MRIが診断の決め手になる病気もあります。あるいは検査を中止するといっても、MRI室の磁場をすぐに止めることはできないので、なにか異常があれば急いでMRI室から脱出する必要があります。(厳密にはMRI室の磁場を緊急停止することは可能です。実際に安全確保のため緊急停止ボタンがあります。しかし緊急停止すると再起動に何百万円もお金がかかります。)

 

緊急MRIの場合はいちかばちか

 予定検査のような検査の計画を立てる余裕がある場合は、検査を受ける人がタトゥーを入れていても、いろいろ考えたり準備できます。火傷のリスクを説明して検査するかどうか本人とじっくり話し合ったり、他の検査で代用できないか検討できます。

 しかし、一刻も早くMRIを撮らないといけない状況もあります。代表的な疾患が脳梗塞です。脳梗塞急性期が疑われる場合、つまり脳梗塞が起こってまだ間もないかもしれない場合は、急いでMRIを撮ることが多いです。起こってすぐの脳梗塞MRIが診断の決め手になることがよくあります。そして診断が着くのが早ければ、その後の治療法の選択肢が広がり、回復の程度にも差が生じます。

 このようにMRI検査を急ぐ状況では、じっくりタトゥーのリスクを説明する余裕はありません。そもそも脳梗塞の場合、本人が話せない状態のことがあります。あるいは救急搬送の場合、身元が分からず家族も誰も病院に来れないことがあります。そんな時は火傷覚悟でMRIを撮るしかありません。

 

タトゥーを入れるときはよく考えて

 若くて健康なうちはMRIの心配をしなくてもいいかもしれません。しかし、人間歳を取るといろいろ病気にかかります。MRIの大きな利点は体への負担が少ないながらも、非常に多くの医学情報を得られることです。MRIがあれば全て診断できるというほど病気の診断は単純なものではありませんが、MRIは非常に有用な検査法です。

 MRIを受けられない、あるいは緊急時にすぐに撮れない、というのはとてもデメリットが大きいと思います。タトゥーを入れようと考えている人は一度そこのところをよく検討したほうがよいです。

 個人的にはMRIのデメリットも大きいですが、温泉などを利用しにくくなることも、日本人としては非常につらい気がします。